見石飾幕
水 引 幕
 兵庫県朝来市生野町は、大同2年(807)の銀山開山以来栄えた町として知られているが、徳川時代、山神宮の祭禮に各御所務山の山師は、その年に採取した極上の鉱石を山車に乗せ、その周囲を金糸・銀糸を織りなした飾幕で装飾し賑やかに曳き廻した。この山車を御見石と称し、これに施された幕を見石飾幕と呼んでいる。
 一方、屋台や檀尻の四本柱に飾る長幕の事を水引幕と云う。水引幕には、金糸・銀糸或いは色糸を用いて、龍や虎、合戦物などが刺繍される。幕地は白や赤が多いが、中には総刺繍の豪華絢爛なものもある。又、縫水引幕の様な派手さは無いが、非常に玄人好みのする織水引幕も、一部の地域で使われている。

 本展示会では、平成12年開催「匠の技−播州祭り屋台刺しゅう展」出展作の中から選抜したものに、未出展の逸品と現在の名工の作品を加え、更に縫いと織りとの技法の違いがご覧戴ける様、平成14年開催「祭礼図絵馬にみる屋台装飾展」出展の織水引幕の白眉を展示致しました。

意匠:龍虎(総刺繍)
製 :昭和30年(1955)頃
作 :四代目絹常 小紫雅康
地区:灘・松原八幡神社/中村

「匠の技−播州祭り屋台刺しゅう展」記念写真集
『意を縫い技を織る』収録
 龍虎の意匠は、水中の王者・龍と陸上の王
者・虎とが一対となる事により、強さと躍動
力を表すと共に、神獣として吉兆を願う心を
表している。
 本作品は昭和53年(1978)迄使用されたもの
で、龍虎の牙や爪には象牙が用いられ、迫力
を一層引き立たせている。幕地全面が金糸で
刺繍され、龍の背景には雲、虎の背景には竹
をあしらい、現存する絹常作品では数少ない
総刺繍で製作された作品の一つである。