露盤   露盤は、本来棟頭頂部の雨仕舞いとして考案された構造材であるが、擬宝珠を取り巻き豪華な棟を一層彩る「錺」へと、その姿を変えていったものである。

 彫刻露盤に於いては、松本系では三代目松本義廣作品と下絵が出て来た堤義法作品を、黒田系では岸和田の名工・岸田恭司作品を、加えて地元・姫路より現代の彫刻のメッカ・富山県井波で修業し独り立ちした若い工匠達の作品を展示しています。古から現在まで、連綿と屋台彫刻の意(こころ)と技とが力強く承け継がれている事を感じて戴けたら幸いです。
 一方、金具製露盤於いては、播州錺金具師の両巨頭、カナセ・下間清平とカナキ・木村円二郎の作品を展示していますので、播州が生んだ名工の技を心ゆくまでご堪能下さい。
 更に今展示会では、意匠(龍・七福神・獅子)が似通った作品の、彫刻彩色⇔彫刻木地⇔金具の比較展示をしていますので、その趣の違いを間近で味わって下さい。

意匠:阿吽龍
製 :昭和24年(1949)
作 :三代目松本義廣
材 :檜
地区:御津・富嶋神社/黒崎


「匠の技−播州祭り屋台の彫刻展」記念写真集
『意を彫り技を刻む』収録
 昭和の名工・三代目松本義廣の作。三代目
の木地露盤は非常に珍しく、本作品も木地だ
けに、逆巻く波・龍の躍動感等、空想の動物
である龍が今にも迫り来る様な迫力がある。
 旧平松露盤とは同意匠・同作者、津熊露盤
とは類似意匠であり、木地と彩色との違いを
或いは彫刻と金具との趣の違いを味わって戴
きたい。
意匠:阿吽龍
製 :昭和4年(1929)
作 :伝 三代目松本義廣
材 :檜
地区:網干・魚吹八幡神社/平松(旧)
所有:屋台文化保存連絡会
 黒崎露盤とは同意匠・同作者、津熊露盤と
は類似意匠であり、彩色と木地との違い、或
いは彫刻と金具との趣の違いを味わって戴き
たい。
 本露盤は平成16年開催「ミニ屋台会館」に
展示後、平松地区より屋台棟(擬宝珠・露盤
等も含み本柱上部一式)を屋保連に寄贈して
戴いた。当会で厳重に保管し「播州屋台会館」
実現時に、屋保連から改めて寄贈と云う形を
とりたい。
意匠:龍
材 :銅
技法:金メッキ・銀メッキ
地区:豊富・甲八幡神社/津熊

「匠の技−播州祭り屋台錺金具展」記念写真集
『意を打ち技を鏨る』収録
 本露盤も猫脚の基台に錺金具が施されたお
り、金具製露盤の基本を忠実に守って製作さ
れている。
 黒崎露盤・平松露盤とは類似意匠であり、
金具と木地彫刻・彫刻彩色との趣の違いを味
わって戴きたい。
意匠:五條大橋
   隠岐次郎左衛門鷲退治
   平清盛龍退治
   加藤清正虎退治
製 :明治30年代後半(1900年代)
作 :カナセ・下間清平
材 :銅
技法:手打ち/金メッキ・銀メッキ
地区:御津・大年神社/加家

「匠の技−播州祭り屋台錺金具展」記念写真集
『意を打ち技を鏨る』収録
 カナキ・木村円二郎と並ぶ播州錺金具師の
巨頭、カナセ・下間清平の作品。
 加家屋台は、飾磨・浜の宮天満宮/宮町が
明治35年(1902)に新調した屋台を昭和3年
(1928)に購入したものである事から、錺金具
の製作も明治35年から数年内と特定される。
意匠:加藤清正虎退治
   平清盛龍退治
   安倍泰成九尾の悪狐退治
   隠岐次郎左衛門鷲退治
製 :昭和28年(1953)[推定]
作 :伝 カナキ・木村円二郎
材 :銅
技法:手打ち/金メッキ・銀メッキ
地区:網干・魚吹八幡神社/吉美

「匠の技−播州祭り屋台錺金具展」記念写真集
『意を打ち技を鏨る』収録
 カナセ・下間清平と並ぶ播州錺金具師の巨
頭、カナキ・木村円二郎の作と伝わる作品。
 本露盤は、基台が猫脚である事と、ガラス
眼が施されている事も特徴である。
意匠:七福神
製 :昭和20年代中頃[推定]
材 :銅
技法:金メッキ・銀メッキ
地区:御津・揖保石見神社/中島岩崎丁

「匠の技−播州祭り屋台錺金具展」記念写真集
『意を打ち技を鏨る』収録
 昭和56年(1981)に荒川地区の屋台を購入し
たと云う。当地区の擬宝珠は鯱が施されてお
り、擬宝珠を付けるとあたかもその鯱が船の
帆にも見える。その姿は「匠の技−播州祭り
屋台錺金具展」記念写真集「意を打ち技を鏨
る」に掲載している。
 大江島露盤とは類似意匠であり、金具と彫
刻との趣の違いを味わって戴きたい。
意匠:鳳凰船七福神
作 :堤義法
材 :檜
地区:網干・魚吹八幡神社/大江島
 瑞祥の象徴として絵画・彫刻・芸能の題材
とされる七福神だが露盤の意匠としてはそれ
程多くは無い。
 七福神はそれぞれ異なった福を司る。商売
繁盛・恵比須神、開運招福・大黒天、勇気戦
勝・毘沙門天、技能福徳・辯財天、不老長寿
・寿老神、延命方除・福禄寿、子宝度量・布
袋尊である。
 中島岩崎丁露盤とは類似意匠であり、彫刻
と金具との趣の違いを味わって戴きたい。
意匠:須佐之男命大蛇退治
   櫛名田媛
   龍
製 :明治20年代
   (1880年代後半〜1890年代前半)
材 :檜
地区:赤穂・荒神社/塩屋東

「匠の技−播州祭り屋台の彫刻展」記念写真集
『意を彫り技を刻む』収録
 製作後約120年を経過しており、木肌の
艶が何んとも言えず、その迫力ある構図と相
俟って、作者不詳ではあるがまさに貫禄の一
作である。
 現在地元では、書籍発行等、祭典関係者に
より屋台保存に向けての活動が盛り上がって
おり、播州の宝として是非とも後世に遺した
い逸品である。
意匠:獅子尽くし
材 :檜
地区:香寺・大歳神社/土師
 唐獅子を全面にあしらった露盤は珍しい。
玉乗り・仔落とし・綱咬み・親子と、5頭もの
獅子が躍動感溢れる様は圧巻であり、まさに
獅子尽くし。
意匠:獅子の玉乗り
製 :平成13年(2001)
作 :岸田恭司
塗師:砂川 隆
材 :檜
地区:網干・魚吹八幡神社/平松
 播州飾磨彫刻師・黒田一門の流れ【初代〜
二代目〜三代目黒田正勝〜木下舜次郎(淡路)
〜筒井和男(岸和田)〜】を汲む、岸和田の名
工・岸田恭司師の作。
 玉の籠彫りなど極めて高い技術は感服する
しかない。
 又塗りは砂川弘征師の息、新進気鋭の隆師
が担当した。
意匠:菅公日笠山の景
   大塩次郎獅子奮迅の武功獅子の玉乗り
   菅公雷神化身の景
   素戔之男尊八岐大蛇退治
作 :前田貴史
材 :檜
地区:大塩・大塩天満宮/中之丁
 前田師は昭和49年、姫路市網干区生まれの
33歳。
 平成5年、彫刻のメッカ・富山県井波で修
業に入り、平成12年に独立。
 本品の他代表作に、網干・魚吹八幡神社/
天満、大塩天満宮/北脇、的形・湊神社/地
の正角等がある。
 師には5月4日(祝)、当会場にて実演を行
って戴いた。
意匠:天の浮橋
   文覚上人の荒行
   後藤又兵衛の撥槍
   野見宿禰の相撲
作 :棒谷雅敏
製 :平成19年(2007)
材 :檜
地区:飾磨・恵美酒宮天満神社/北細江
 棒谷師は昭和48年、姫路市飾磨区生まれの
35歳。
 平成8年富山県井波の柳沢英一師に入門。
平成13年独立。
 平成18年より飾磨・恵美酒宮天満神社/北
細江地区屋台の彫刻を手掛け、昨年披露され
本展示会に出品されている露盤はその大きさ
と共に、珍しい図柄が注目を浴びている。
 師には5月3日(祝)、当会場での実演で、
北細江屋台の狭間を彫り進めて戴いた。