狭間  播州祭り屋台装飾の花形は、何と言っても狭間!そこには、かつては一世を風靡し、全国にその名を轟かせた、数多の播州彫刻師達の、意(こころ)が彫られている。
 播州屋台の狭間彫刻は、飾磨の黒田一門・松本一門の手により、その多くが作られて来たが、松本系では今や二代目小河義保師一人となり、黒田系は地元播州ではその枝を見つける事は出来なくなった。
 しかし乍ら近年、頑なに技法を守り続けた小河師の他、新たに学んだ技法を用い、先人の技を超えんとして果敢に取り組んだ工匠達が現れ、彫刻の本場富山県井波で修業し「祭りの血」とも言うべき地元の熱い想いを鑿に込めている。その作品は、播州屋台彫刻の新たな系譜を予感させる。現在も屋台彫刻は力強く承け継がれているのだ!

 本展示会では、平成8年開催「匠の技−播州祭り屋台の彫刻展」出展作品の中から選りすぐりの逸品に初出展作を加え、松本一門からは花岡⇒初代〜三代目松本・堤・小河と現在へ連綿と?がる系譜の作品を、黒田一門からは地元にあまり作品が多くない為、その系譜に連なる淡路・岸和田の名工の作品を、更に上記の前途有望な若手工匠の溌剌とした作品を展示致しました。心ゆくまでご堪能下さい。

意匠:唐子遊び
   司馬温公甕割りの場
   宝車曳き
   雪遊び
製 :安政年間(1850年代)
作 :花岡松蔵義廣
材 :檜
地区:網干・魚吹八幡神社/天満
 次に展示している、初代松本義廣作の長松狭
間と共に、播州屋台狭間彫刻の龍虎と並び称さ
れる逸品中の逸品。
 何も言葉は要らない。その意(こころ)を十二
分にご鑑賞戴きたい。

「匠の技−播州祭り屋台の彫刻展」記念写真集
『意を彫り技を刻む』収録
意匠:安宅
   祇園林夜雨
   玄徳躍馬跳檀渓
   韓信きん歙に大蛇退治を命ず
製 :明治中期(1880〜1890年代)
作 :初代松本義廣
材 :檜
地区:網干・魚吹八幡神社/長松
 上に展示している、花岡松蔵義廣作の天満
狭間と共に、播州屋台狭間彫刻の龍虎と並び
称される逸品中の逸品。
 こちらも説明不要。その技を十二分にご鑑
賞戴きたい。

「匠の技−播州祭り屋台の彫刻展」記念写真集
『意を彫り技を刻む』収録
意匠:菅原道真公遊歩の場
   神功皇后
   朽木隠れ
   名和長年後醍醐天皇御迎の場
製 :明治17年(1884)
作 :二代目松本義廣
材 :檜
地区:御蔭・新次神社/曽坂
 二代目松本義廣の作で、四面共揃っている
のは極めて珍しく貴重な作品。
 元は、飾磨・浜の宮天満宮/須加屋台の狭
間で道具箱も残っており、
「明治十七年申年三月吉日
      家臺彫物箱 須加町若中」
           と墨書されている。
意匠:菅原道真公遊歩の場
   名和長年後醍醐天皇御迎の場
   佐久間玄蕃太閤本陣乗込の場
   芦屋道満童子問答の場   
製 :昭和10年(1935)
作 :三代目松本義廣
材 :檜
地区:飾磨・浜の宮天満宮/天神
 数多くの作品を残した三代目松本義廣の中
でも、最高傑作と云われる逸品。
 天神地区では、平成2年に屋台を新調した
が、本狭間は現屋台に承け継ぎ、町の宝とし
て毎年練り出されている。

「匠の技−播州祭り屋台の彫刻展」記念写真集
『意を彫り技を刻む』収録
意匠:鎮西八郎為朝の強弓
   村上義光錦旗奪還
   布引四段目小桜責
   楠公父子訣別桜井駅
製 :昭和32〜33年(1957〜1958)[推定]
作 :三代目松本義廣
材 :檜
地区:網干・魚吹八幡神社/田井
 三代目松本義廣の作の中から、彩色された
ものを一作用意してみた。木地との趣の違い
を味わって戴きたい。
 名工の作は何れにしても味わい深いもので
ある。
 又、本作は三代目最晩年の作品であり、播
州飾磨彫りの掉尾かと思うと感慨深いものが
ある。
意匠:播州木場風景之圖
   新田義貞藤島奮戦之場
   神功皇后應神天皇平産之場
   赤松弾正氏範長山遠江守勇戦之場
製 :平成8年(1996)
作 :二代目小河義保
材 :檜
地区:灘・松原八幡神社/木場
 地元・木場の風景も取り入れた、氏子の熱
い想いが込められた作品。
 本狭間は、平成8年開催「匠の技−播州祭
り屋台の彫刻展」に於いて、師に実演をして
戴いた時にも彫り進めて戴いた、主催者の我
々にとっても思い出の作品。
意匠:梶原景季の奮戦(生田の森)
   安宅の関(弁慶勧進帳)
   巴御前の勇姿(近江の合戦)
   本能寺の変(森蘭丸の奮闘)
製 :平成6年(1994)
作 :松田正幸
材 :檜
地区:飾磨・中島天満宮/中島
 平成6年、30数年振りに大屋台を復活させ
た中島地区は、狭間彫刻を黒田一門で、飾磨
で修業した最後の彫刻師であり、淡路の名工
・松田正幸師【初代〜二代目〜三代目黒田正
勝〜】に依頼した。
 ある意味では最後の飾磨彫りと云えるかも
しれない。